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福岡地方裁判所 昭和63年(ワ)97号 判決 1988年6月20日

原告

福岡県信用保証協会

右代表者理事

永井浤輔

右訴訟代理人弁護士

廣瀬達男

被告

古川哲之

被告

古川八重子

被告

古川祥朗

右被告ら訴訟代理人弁護士

水崎嘉人

江口仁

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一〇四万八七八九円及びこれに対する昭和四七年一〇月二七日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨

2  仮執行宣言

二  被告の本案前の答弁

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告古川八重子、同古川祥朗(以下、古川両名と略す)は、連帯して株式会社福岡銀行(以下、「訴外銀行」という)から後記4のとおり金員を借り受けるに先立ち、原告に保証委託をしたので、原告は、昭和四六年三月五日これを承諾し、古川両名との間で、原告が古川両名に代って借受金債務を弁済したときは古川両名は連帯して原告に対し右弁済金及びこれに対する年14.6パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨を約定した。

2  被告古川哲之は、昭和四三年三月五日、原告に対し、古川両名が前項の信用保証委託契約により原告に対して負担すべき債務について連帯保証することを約した。

3  原告は、昭和四六年三月五日、訴外銀行に対し古川両名が後記4のとおり借り受ける一〇〇万円の貸金債務について連帯保証することを約した。

4  古川両名は、昭和四六年三月九日、訴外銀行から連帯して一〇〇万円を次の約定で借り受けた。

① 利息 年8.4パーセント

② 利息支払方法 期間内前払

③ 元金の支払方法 昭和四六年一〇月から昭和四九年二月まで毎月八日限り三万四〇〇〇円ずつ、昭和四九年三月八日限り一万四〇〇〇円をそれぞれ支払う。

④ 借主が分割金の支払を一回でも怠ったときは、貸主の請求により期限の利益を失う。

5  古川両名は、前記の借受金につき、訴外銀行の請求により昭和四七年一月八日に期限の利益を失った。

6  原告は昭和四七年一〇月二六日、訴外銀行に対し、古川両名に代って次の金員を支払った。

① 貸金 一〇〇万円

② 利息 四万八七八九円

ただし、貸金一〇〇万円に対する昭和四六年一〇月九日から昭和四七年五月二七日まで年8.4パーセントの割合による利息

(合計一〇四万八七八九円)

よって、原告は、被告古川両名に対しては、各自、右求償金一〇四万八七八九円及びこれに対する代位弁済した翌日である昭和四七年一〇月二七日から支払済みまで約定の年14.6パーセントの割合による遅延損害金の支払を、被告古川哲之に対しては、連帯保証債務の履行として、右と同額の支払をそれぞれ求める。

二  被告らの本案前の主張

原告と被告らとの間には、本件訴訟と同一の訴訟物について福岡簡易裁判所昭和五二年(ロ)第三二八八号支払命令申立事件が確定し、原告は確定判決と同一の効力を有する債務名義を得ている。

原告は右債務名義により強制執行を行い消滅時効の中断を得ることができたのであるから、本件訴えは訴えの利益を欠くものである。

三  被告らの主張に対する認否及び反論

1  被告らの本案前の主張にかかる事実は認め、その主張は争う。

2  福岡簡易裁判所昭和五二年(ロ)第三二八八号支払命令申立事件にかかる仮執行宣言付支払命令は、被告古川祥朗については昭和五二年一〇月一九日、同古川八重子については同年一〇月二日、同古川哲之については同年一一月一八日に確定している。

原告はその後、被告ら三名に昭和六二年一〇月一五日到達の書面をもって催告をなし、次いで昭和六二年一二月二日に被告ら三名に対し支払命令の申立てをしたところ、被告らがこれに異議を申し立て、本件訴訟に移行したものである。

3  原告には強制執行をすべき義務はないし、本件では強制執行すべきめぼしい財産はない。

四  原告の反論に対する認否

原告の反論のうち2の事実は認め、同3のうち不動産がないことは認めるがその余は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一本件訴訟と訴訟物を同一とする福岡簡易裁判所昭和五二年(ロ)第三二八八号支払命令申立事件にかかる仮執行宣言付支払命令が被告古川祥朗については昭和五二年一〇月一九日、同古川八重子については同年一〇月二日、同古川哲之については同年一一月一八日に確定していること、原告はその後、被告ら三名に昭和六二年一〇月一五日到達の書面をもって催告をなし、次いで昭和六二年一二月二日に被告ら三名に対し支払命令の申立てをしたところ、被告らがこれに異議を申し立て、本件訴訟に移行したことの各事実は当事者間に争いがない。

二そうすると、被告らは既判力によって確定された請求原因事実にかかる給付請求権につき前の支払命令申立事件の基準時以降の事由を何ら主張しないから、原告の本訴請求は理由があることとなる。

三ところで、既に勝訴の確定判決と同一の効力を持つ確定した仮執行宣言付支払命令を得ている場合には再度の訴え(あるいは支払命令申立て)は訴えの利益がなく却下されるべきものであるが、更に勝訴判決を得る必要性が認められるときには許されるものというべきである。これを本件についてみると、前記一の事実関係によれば、本件では確定した支払命令にかかる被告らに対する請求権の消滅時効の完成が切迫していたため、これを中断するために催告のうえ新たに支払命令あるいは判決を得ておく必要性があったものと認めることができる。

被告らは、原告は既に取得している仮執行宣言付支払命令を債務名義として強制執行を行い、消滅時効を中断することができたのであるから、本訴の提起は訴えの利益はないと主張するが、時効中断のために他の手段を尽くしたときにのみ再度の訴え提起(支払命令の申立て)が許されるものと解することはできない。

すなわち、一般に金銭執行は債務者に苦痛を与えることが少なくなく、特に家財道具などを差し押える動産執行は債務者の生活に甚大な影響を及ぼしかねないが、それによる債権の回収額は低く実効性があまりないというのが通例であり、かえって、執行費用が増して債務者の負担を増やすことにもなる。また、不動産に対する執行についても目的物が債務者の住居や店舗である場合には、債務者の生活の場等を奪う結果となることも多い。したがって、債務名義を取得した以上は、必ず強制執行によって債務の回収を図るべきであるということはできないし、時効中断の方法もできるかぎり強制執行によるべきであると解すべき根拠はない。債務名義を有している場合であっても、債務者の生活を脅かすことのない範囲において、債務者から任意に弁済を得ていくという方法も、もとより一つの正当な債権回収の方法であり、現行法上、どのような債権回収の方法を選択すべきかという優劣関係は定められておらず、債権者の自由な選択に任されているものというべきである。そして、一般に、判決やこれと同一の効力を有する裁判を得ることは、時効中断の方法として他の方法よりも確実で、かつ時効期間においても有利であるから、既に判決等を得ていたとしても、時効完成が切迫した段階で再度債権者がこれらの方法により時効中断の手続をすることは特に違法視されるべきものではないと考えられる。

本件の場合、被告らが不動産を有していないことは当事者間に争いがなく、被告らに他に容易に換価でき多額の債権の回収を図ることが可能な責任財産があり、これを原告が容易に知りうることができたのに強制執行を行わなかったというような特段の事情の主張立証もないのであるから、原告の本件訴えが権利保護の適格を欠くものとは到底いいがたい(以上の限度において、大判昭和六年一一月二四日民集一〇巻一〇九六頁以下の一般論としての説示とは一部見解を異にする。)。

四よって、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用し、仮執行宣言の申立てについては、その必要がないものと認めてこれを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官大島隆明)

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